正しいアレの使い方



「真田さん」
「何だ」
「どっか遊びに行きません?」
「何でお前と」
「よく考えてみてくださいよ、今寮にいるのって、オレと、真田さんだけっすよ」
 順平の言葉に、明彦はようやく顔を上げる。
 確かに今日は日曜日。リーダーはクラスメイトと遊びに行くと言って早々に出て行ったし、美鶴は家に用事があるとかで昨日の夜から居ない。ゆかりも同じく朝から出かけており帰りは夜になるという話だった。
つまり、今寮にいるのは確かに順平と、明彦だけなのだ。
「外は良い天気だし。外で遊ばないと勿体ないっすよ」
「…勝手に行けばいいだろうが」
「つれないっすね…」
 携帯ゲーム機の画面から顔を上げた順平は、ぶーたれて見せた。
「オレとデートしましょうって言ってるのに」
「誰がお前とデートなんかするか」
 磨き上げたボクシンググローブを眺めて、一人納得すると明彦はソファーから立ち上がる。
「だが……海牛の牛丼を食べるくらいなら、付き合ってやるぞ」
 その誘いに順平が乗らないはずがない。
「おともさせていただきます!」


 海牛の牛丼でお腹を満たした二人は、寮への道を歩いていた。
 その時、あ、ちょっと、と言って順平が立ち止まったので、何かと振り返れば、ドラッグストアの方を指さしていた。
「何だ、何処か具合でも悪いのか?薬なら寮に救急箱があるが」
「いや、ちょっとヤボ用で…」
 そういう順平の目は泳いでいる。腹でも壊したのかと心配したが、順平はとにかく「先に行っていてください」としか言わない。
「順平、何を隠している!?」
「な、何にも隠してないっす!すぐ追いつきますから、真田さん先に帰っててくださいって」
「何か良からぬ事を企んでいるのではないだろうな?」
 一瞬順平がマズイ、という顔をしたが、幸いにして明彦はそれに気づかなかった。とにかく先に戻っていてください、と明彦を半ば振り切るようにしてドラッグストアに駆け込むと、目的の商品が並んでいる棚に駆け寄り、一番安いやつをひっつかんでレジへ走る。
「500円になりまーす」
 代金を払い、袋に入れられたそれを持ってドラッグストアを出る。早く明彦に追いつかなければ、と走り出そうとしたその時、
「早かったな」
「さ、真田さん!?!?」
 明彦がドラッグストアの入り口で待っていた。まさか待っているとは思わず、順平は思わず持っていた袋を落としてしまった。その拍子に中身が飛び出す。
「これは…」
 明彦がそれを拾い上げるのと、順平があちゃーと目を手で覆うのはほぼ同時。順平が買ってきた物、それは黒い小さな箱に入ったコンドームだった。
「お前、こんなもの買ってどうするんだ」
「そりゃ…こう、いつでもそういう場面になったときに、その」
「そんな場面になる予定があるのか」
「いや、無いっすけど…」
 むしろ真田さんとそうなりたいんですけど、とは言えなかった。言ったら16連勝中の拳で殴られるのは目に見えて明らかだ。
 しかし、次の瞬間、順平はそれ以上の衝撃を受けた。
「ところで、これはどういう風に使うんだ?」
「へ?」
 思いがけない方向からのジャブに、順平は暫し状況が掴めなかった。いや、明彦が何を言っているのかが分からなかったのだ。
 健全な男子高校生たるもの、女の子といい関係になって、あんなことやこんなことをしたいという願望が少なからずあるはずだ。そして来るべき日に備え、雑誌やインターネットや、友達間の情報交換などで様々な情報を手に入れている。
 それが、今時コンドームに使い方を知らない男子高校生がいるとは……呆れる、とはこのことだろうか。順平は一気に疲れたような気がして、がっくりと肩を落とした。
 明彦は何故順平が黙り込んでしまったのか分かっていなかった。ただ噂には聞いていた「コンドーム」なるものが目の前にあることで、使い方を聞いた、ただそれだけの事だったのだ。 「…分かりました、教えてあげますから、取りあえず寮に帰りましょう」
「そうだな」
 順平は明彦の手からそれを取り上げ、ズボンのポケットに突っ込んだ。


 順平の気持ちが反映されたのか、あんなに晴れていた空に分厚い雲が広がると、急に雨が降り出した。寮まであと少し、と二人は走り出す。丁度寮の玄関になだれ込んだ所で、雷が響くのが聞こえた。
「危なかったな」
 息を切らしながら、ちらりと明彦の方を見ると、濡れたシャツが貼り付いている。元々ぴったりとした形の服だったが、より身体のラインを強調するそれから順平は視線を逸らした。
「…そうっすね」
 上の空で返事をしながら、順平はそそくさと自分の部屋に戻ろうとした。もう自分のアレが起きあがる五秒前、という状態になっており、早く楽になりたかった。
 が、一歩踏み出した所、何かに引っかかったような気がして後ろを振り返ると、シャツの裾を明彦がしっかりと掴んでいる。
「それの使い方を教えてくれる約束だろう?」
 それ、とは順平のポケットに突っ込まれているアレだ。興味津々、と言わんばかりの表情で、明彦はジッと順平を見ていた。忘れてくれていれば良かったのに、と内心思ったが、こうなってしまってはもうどうしようもない。仕方なく順平は覚悟を決めた。
「…じゃあ、真田さんの部屋にいきましょ?そこで教えますから」
「分かった」
 そうして順平は明彦の部屋に入った。正直、我慢できないかもしれない、と思いながら。
「で、どうすればいいんだ?」
「取りあえず、ベッドに座ってください」
 分かった、と言って明彦はベッドに座った。順平はちょっと失礼しますよ、と言ってベッドに上がり、明彦の後ろに座る。
「真田さんも知ってると思いますけど、一応。コレ、セックスするときに使うやつっす」
 ポケットから箱を引っ張り出すと、小さな袋を引っ張り出し、明彦に渡した。へぇ、と分かっているのかどうなのか分からない返事をする明彦に、順平は続ける。
「付けるときはそれなりに勃ってないとダメなんで。ちょっと」
 失礼します、と一応断ってから順平は明彦を後ろから抱きしめるような形になった。これには明彦も驚いたようで、おい、と僅かに抵抗の様子を見せる。
「…誘ってきたのは真田さんっすよ」
 順平は器用に明彦のベルトを外し、まだ柔らかい明彦のそれを引っ張り出してそっと撫でる。
「な、何をする」
「何するって、使い方教えてくれって言ったの真田さんっしょ」
「しかし…!」
「しっ」
 なおも抗議を続けようとする明彦の言葉を遮って愛撫を続ける。徐々に固さを持ち始めると同時に、明彦にも変化が見え始めた。頬が紅潮し、息遣いが荒くなってきているのが後ろからでも分かった。
 明彦が、自分の愛撫で感じてくれている、という事実が、順平にはたまらなく嬉しかった。そして、自分のそれも同じように固くなってきていた。限界は思いがけず近いところにあるのかも知れない。
「じゅ、順平…んっ、あ」
「真田さん…」
 先よりにじみ出た液体でより順平の手の動きがなめらかになり、むずむずした感触がくすぐったいような、気持ちいいような微妙な感覚に明彦はどう対応して良いか分からず、ただされるままになっていた。
 そして、もう限界だと思った次の瞬間、順平の手が離れた。愛撫が中断されたことで中途半端になった快感が行き場を無くして明彦の中で渦巻いている。
 どうして、と言わんばかりの目で順平の方を見る、順平は困ったな、という顔をして、先程明彦に一つ手渡したコンドームの袋を見せると、
「コレの使い方教える約束だったっしょ?」
 と言う。そして器用に袋から丸まったそれを取り出すと、おもむろに明彦の固くなったものの先端に当てた。
 順平の手に合わせて丸まっていたものがしっかりと明彦を包んでいく。根本まできっちり伸ばして、はい、できあがり、と順平は言った。
「これで装着完了っす。後は入れるなり自分でイクなりお好きにどうぞ」
 そう言って順平は明彦から手ばかりでなく、身体も離そうとする。明彦からしてみれば、このような中途半端な状態で止められる方が辛い。もしや、順平は怒っていて、これは仕返しなのだろうか、と思うほどだ。
「じゃあ、オレ部屋に戻るっす」
「ま、待て!順平!」
 慌ててその手を掴んだ。え、と順平が振り返ると、明彦は恥ずかしそうに何か口ごもっている。
「その、…頼む、続きを…」
 その言葉に、順平はほとほと困り果てた。確かにただコンドームをかぶせるだけならばここまで丁寧に愛撫する必要はなかったし、少しは困らせてやれ、と思ったのも事実だ。
 しかし、好きな人を前にして、潤んだ瞳でおねだりされて、首を横に振る男が居るだろうか?
「ああっ、もう!真田さんのバカ!」
「ば、バカとは何だ!」
「オレがどんなに苦しいかって、考えたことないでしょ」
「は?」
 次の瞬間、明彦はベッドに押し倒されていた。順平に上から覆い被されるように覗き込まれていたかと思えば、次の瞬間キスされる。
「ずっと、好きでした。真田さんの事」
 もうオレ我慢できないっす、と順平は言い、再び愛撫を開始する。コンドームの所為だろうか、先程よりも僅かに鈍い感覚ではあったけれど、それでも明彦のスイッチを入れるには十分だった。
「んあっ、あ…じゅ、ん…ぺ…」
 程なくして達した明彦は、たっぷりと白濁した液を吐き出し、ぐったりと力が抜けたようになった。そんな明彦の頬を軽く叩いて順平は苦笑する。そして、もう一度キス。
「真田さん、まさか自分だけ気持ちよくなって終わり、じゃないっすよね?」
 ん?と言うと、順平は自分の股間を指さし、オレもこんなんなんですけど、と言って笑った。
 それを見た明彦は一瞬顔をしかめたが、怖ず怖ずと手を伸ばす。その様子を見て、順平はドキドキしていた。
「ほら、みんなが帰ってくるまで時間はありますから」
 だから、今日はオレとデートしましょ?ベッドの上で。と言ったら、顔を真っ赤にした明彦に「調子に乗るな」と殴られた順平だった。