ドキドキ告白アワー



「お、俺、真田さんの事好きっす」
 一大決心だった。顔を真っ赤にしながら、相手の顔もまともに見れず、それでも順平は勇気を振り絞って目の前に立つ明彦に向かって想いを告げた、のだが。
「何言ってるんだ、俺も好きだぞ」
 拒否されたら、適当に誤魔化して逃げるつもりだった。断られたら、取りあえずこの場では引き下がるつもりだった。
 しかし、「俺も好き」という返事は、順平が想定した結果には含まれていなかったから驚いた。
「え、ま、マジっすか!?」
 思いがけない返事に、順平は天にも昇る心地だった。最初から諦めていながらも、一人でこの気持ちを抱えているのが苦しくて苦しくて、その結果の告白だ。それなのに承諾の返事をもらえるなんて、と。
「じゃあ、チューしても、いいっすか…」
 自分でも調子に乗っているな、と思う。思ったがもう順平は目の前に立っている明彦に対しての気持ちを自制出来ないくらいに嬉しくて、抱きつこうとしたその矢先、自分の頬に明彦のグーパンチがめり込むのが分かった。続いて痛みが広がる。流石ボクシング部主将、そのパンチは容赦なかった。
「さ、真田さん、どうして…」


……という夢を見た。
 ちなみに感じた痛みは明彦に殴られた痛みではなく、順平がベッドから落ちた際に、顔を強かにぶつけた痛みだった。
「…はよー」
「やだ、順平なにそれ!?」
 真っ赤になった頬を見て、ゆかりが素っ頓狂な声を上げる。順平は頬を膨らませて、ぶつけたの、とだけ言った。勿論何処でぶつけたのかは秘密だ。
「どうしたんだ伊織」
 美鶴も心配そうに順平を見ている。ますます「夢を見ていてベッドから落ちました」なんて言えない。言えっこない。
「何でもないっす!俺のことは気にしないでください!」
 だだだだっと、半分逃げるように寮から出た。外は今日も暑い。
 幸いだったのは、明彦があの場にいなかったことだ。さすがにあの夢の後で顔を合わせるのは、気まずい。勿論明彦は何も知らないのだが、夢でちょっとだけ期待した所為で、今まで完全に諦めていた「両思い」への期待が抑えても抑えてもわき出してくる。
「!!!あぁっ〜!そんなわけないっての!」
 でも、いつまでこの気持ちを抑えていられるか…夢で見たように、明彦に自分の気持ちをぶつける日もそんなに遠くないのではないか、と順平は思っていた。例えグーパンチで殴られようとも。
 憎らしい位に青く晴れ渡った空に向かって、「真田さん、好きっす!」と叫んだら少しはすっきりするかな、と順平は思った。