バレンタイン



 ジョージと知り合ってからもう2か月が経とうとしている。
 彼はよく連絡をくれるし、何度か一緒に食事もした。けれど、これって付き合ってるって言うのかしら?
 確かにジョージといるとすごく楽しいし、時間もあっと言う間に過ぎてしまう。ジョージが笑っているのを見るのはとても嬉しい。
 きっと私はジョージの事が好きなんだと思う。そうでなければ暇になる度にジョージの事考えたりはしないでしょう?
 それを真剣に友達に相談したんだけど、一笑されてしまったわ。「もうとっくに自覚しているものだと思っていた」ですって。

 もうすぐ聖バレンタインの日。恋人の日とでも言うのかしら?恋人は互いにカードやプレゼントを贈りあう習慣がある。
 ジョージは私の事どう思っているのかしら?連絡してくれたり食事に誘ってくれたりしているくらいだから、決して悪い印象ではないと思うんだけど…
 でも、それは単なる友達としての付き合いだとしたら?ジョージは誰にでも優しそうだし…
 そんな事を考えていると突然不安に襲われる。ジョージの気持ちが知りたかった。今ならもし駄目だとしても、まだ引き返せる、そんな気がしたの。
 だって、どうしようもなく好きになってからじゃ、遅すぎるわ。

 そういう訳で、私はジョージの本心を確かめる為に、14日にデートの約束を取り付けた。
 もちろん気持ちを書いたカードとプレゼントも用意したわ。ジョージだって今日がバレンタインの日だって知っていると思うし、彼は私にカードを用意してくれているかしら?
 そんな事を考えていたら、つい仕事中に三枚もお皿を割ってしまったの。ウィルがしきりに心配してくれていたわ。しっかりしなくちゃ!
 …でも、ロッカーにこっそり隠したカードとプレゼントを思うとつい…大きな音がして、はっと手もとを見ると、本日四枚目のお皿が粉々になっていたわ。
 結局私は早退することにした。だってあのままお店にいても、きっと迷惑を掛けるだけだわ…

 ジョージとの待ち合わせは7時。場所はいつものレストランだった。
 忙しいジョージは普段遅れがちだけど、その日は珍しく、私がついた頃には既に席で待っていた。後で聞いたら今日はお休みだったといっていたわ。
 普通に食事をしながらの会話。ジョージの態度は普段と何にも変わりないように見えた。私なんか、ドキドキして自分を作るので一生懸命だったのに!
 ああ、ジョージは私の事何にも思っていないのかしら。不安ばかりが押し寄せて胸が張り裂けそう…

 そんな時、ジョージが何か取り出してきて私に差し出してきた。
「  これは?」
 分かりきった事だったけど、私は聞いてみた。期待どおりの言葉がジョージの口から発せられる事を祈って。
「今日は聖バレンタインだろう?シンディに、私から」
「いいの?私が受け取っても?」
「もちろんだよ。君の為に買ってきたんだから」
 はやる気持ちを抑えて、私はジョージから渡された小さな包みを丁寧に開けた。中から出てきたのは小さなペンダントだった。
「可愛い」
「気にいってくれるといいんだが」
そういうジョージは何だか照れくさそうに見えた。こんなプレゼントを私にくれるってことは、期待してもいいのよね?
「私も、ジョージに、プレゼントがあるの。受け取ってもらえる?」
 そういうと、ジョージはとても嬉しそうに微笑んだ。
「もちろんだとも」
 そして私はジョージにプレゼントとカードを手渡した。彼がカードにどういう反応を示すのか、ドキドキと胸を高鳴らせながら。

 …え、後はどうなったかって?それは、私とジョージだけの秘密。