070:ベネチアングラス(鬼畜眼鏡 御堂×克哉)



 御堂の部屋は何だか緊張する、と克哉は来る度に思う。
 センスの良い家具やささやかな調度品が厭味無く配置された部屋は、どうにも生活感が感じられなくて、まるでモデルルームにでも来ているような錯覚すら覚える。
「み、御堂さんの部屋って、何か……」
「何だ?」
 ソファーに身体を沈めて、ちびちびとワインを飲む。あまり褒められた飲み方ではないが、家だからか御堂は何も言わない。
「何か、雑誌に出てきそうな部屋、ですよね……」
「そうか?」
 小さくカットしたブルーチーズをつまんで口の中に入れながら、御堂は首を傾げた。そりゃ、いつもこんな部屋で生活していれば分からないだろうけど、と克哉は心の中でこっそり呟く。
 ワインはとても美味しかった。あまり詳しくない克哉でも、それくらいの事は分かる。でも、ブルーチーズはあまり得意ではないので、代わりに熟成していないカマンベールチーズを手に取り、食べながら目の前の映画に集中する振りをする。
 懐かしい映画だった。克哉も一度見たことがあったが、あまりに昔だったため内容は殆ど覚えていない。だから最初は見ている振りだったのが、いつの間にか真剣にスクリーンに映し出される映像に見入っていた。
 そんな克哉を現実に引き戻したのは、肩に乗せられた御堂の手だった。
「御堂さん?」
 呼びかけても、御堂は答えない。しかし、肩に置かれた手はするすると動いて肩から背中へと下り、克哉の背中を撫でながら腰骨の辺りまで降りていく。背中を一本の指で撫でられている感触に近いそれは、むず痒さを引き起こして克哉の集中力を削いでいった。
「御堂さん」
「どうした?」
「その、手が」
「手がどうかしたか?」
 ニヤリと笑って、腰に添えられた手の指をわざと踊らせてその存在を主張する。
「いえ、何でも……」
 その間にも手は更に下へ下っていく。ジーンズの上から尻の割れ目をなぞるようにして何度か行き来しているかと思えば、急にシャツを捲り上げられ、ズボンと下着の隙間に侵入してくる。そうなるともう映画を見ているどころではない。手の動きが気になって、どうしてもスクリーンに意識を留めておくことが出来ない。
「っ、み、みどう、さんっ……」
 下着越しに尻を撫でられ、肌が粟立つ。とんとん、と割れ目の奥にあるアナルへの入り口をノックされただけだというのに、身体は敏感に反応してしまった。急にペニスが熱を持ち始め、克哉はどうしていいか分からない。
 ちらりと御堂の方を見るが、彼は映画に集中しているように見えた。じっとスクリーンの方に視線をやり、黙っている。
 その時、ぐい、と指が克哉の後ろをこじ開けようとして動いた。幸い下着越しだったから直接触れられる事はなかったが、それだけで御堂が何を考えているのか、克哉には十分伝わった。
 手で包み込んでいるワイングラスはとっくに空になっているのに、手放すタイミングを逃して手の中でぬるくなっていた。綺麗な装飾が施されたそれは、ベネチアングラスだと前に御堂が言っていた事を思い出す。
「御堂さんっ!こ、このグラス、綺麗ですね」
 意外な発言だったのだろう。一瞬、御堂の手が止まった。その隙に克哉はグラスをテーブルの中央の方へ置く。これでうっかり落として割ることはないだろう。
「そうだな。もらい物だが、なかなかいい物だと思う」
 克哉の意図を知ってか知らずか、御堂も自分が使っていたグラスをテーブルの中央の方へ移動させた。そして、今まで下着越しに動いていた手を、下着の中へ侵入させる。
 冷静な視線とは裏腹に、御堂の手は熱かった。ぞくりとした次の瞬間、昨晩御堂に触れられた時の事がフラッシュバックして、克哉を更に追いつめていく。
 そっと体重を移動させて隣の御堂に寄りかかるようにすると、自然と尻が浮き上がるような形になった。御堂はそれを見逃すことなく、より奥へと指を進める。もう少しでアナルに届こうかというところで、ぴたりと侵攻は止まり、代わりにゆっくりと臀部を撫でられた。
 一度も触れられていないはずのペニスが、すっかり硬くなってジーンズを圧迫している。早く脱いでしまいたい、という衝動に駆られたが、そうする勇気は克哉には無かった。
「どうした、克哉」
 分かっていて敢えて聞いてくる御堂が少し恨めしい。ちらりと上目遣いで見上げれば、
「そんな顔をするな」
 愉しそうに笑いながら、御堂は克哉の尻から手を離した。そして、おもむろに克哉のジーンズのジッパーに手を掛け、一気に引きずり下ろす。その瞬間を待っていたかのように、固くなったペニスが顔を出した。
「もうこんなにしているのか。淫乱な身体だな」
「うっ、み、どうさっ…」
 強く握られて克哉は呻き声を漏らす。
「私にどうして欲しい?」
「お、オレを、気持ちよく、してください……」
 御堂の前で意地を張っても意味がないことは克哉自身よく分かっていた。御堂はますます愉しそうな顔をして、次の快感を求めて震えるペニスを口に含んだ。
「んんっ!!はぁあ……ん、あ」
 突然の刺激に、喉から甘い声が溢れる。こうしていつも御堂に翻弄されてしまう自分を恥ずかしく思いながらも、それ以上の快感を知ってしまった身体は抗うことが出来ない。
 ちろちろと自分のペニスに這い回る御堂の舌が艶めかしい。水音が聞こえる度に快感が全身を駆け抜けていく。御堂はそれが克哉を更に煽ると知っていて、わざと大きく音を立てて吸い上げた。
「あっああっ!!み、みど……さ……うぅっ」
「もう限界か?」
 御堂の問いかけに答えようと口を開くが、もう喘ぎ声しか出てこない。そんな克哉の様子を愉しそうに見ながら、御堂は一層刺激を与えてくる。
「もう、だめっ、で、…あああ、で、でちゃ、う……っ!!」
 びくりと克哉の身体が硬直したかと思うと、御堂の口一杯に苦い液体が満たされる。
「ああっ、あ、あぁ……ご、ごめんなさい……」
 消え入りそうな声で謝る克哉の声を無視し、ごくりとそれを飲み込むと、御堂はテーブルに置かれたベネチアングラスにワインを注ぐと一気に煽った。その後もう一度、今度は少量のワインを口に含むと、そのまま克哉に口づけをする。
 口移しでワインを流し込まれ、苦みと香りで咽せてしまった。口の端から溢れた赤い液体を舌で舐め取ると、御堂はにやりと笑って、
「中々美味かった」
「ええっ!?そ、そんな」
「冗談だ。君のでなければ飲みたくもない」
「御堂さん……」
 平然と言い放つ御堂に克哉は唖然とするばかりだ。それと同時に、自分が愛されている事を実感する。僅かに頬を染めた克哉を一瞥して、御堂は、
「克哉。君だけが気持ちよくなって終わりだとは思うなよ?」
 そのままソファーに押し倒される。御堂の家にあるソファーは大きく、大の男が横たわっても余裕だ。ジーンズを下着毎引きずり下ろされ、露わになった尻を御堂に向けるような体勢になると、恥ずかしさと同時にこれから与えられる快感を想像して克哉は身震いをした。
「フン、誘っているのか?」
「そ、そんな……み、みどうさん、早く……」  克哉のアナルは先程の中途半端な刺激を受けて早くもひくひくと震えていた。御堂はそこに自身の先走りを絡めた指を差し込む。ぐるりと内壁をなぞるように指を動かすと、中の肉が指に絡みついてきた。
「本当にお前はここが好きだな」
 何度か指を出し入れした程度で大して慣らしもせず、御堂は固くなったペニスを克哉のそこへ差し入れた。
「うぁあっ、あぁっ、っ」
「相変わらず、いやらしい、身体だ」
 初めはゆっくりと、慣れてくるのと同時に激しく腰を動かし始める。初めは翻弄されるばかりだった克哉も、次第に御堂の動きに合わせて腰を動かしていた。
「み、どう、さんっ、みどうさっ……!」
「克哉」
 先程達したばかりだというのに、克哉のペニスは再び固くなっていた。御堂は克哉の腰を支えていた手を片方離すと、それに手を添える。直接的な刺激に克哉の身体は震えた。
「いいっ、あっ、きもち、いい……御堂さん、み、どう、さん」
「もっと悶え、私を求めろ」
 そう言う御堂も余裕が無くなってきたのか、絶頂に向けて更に腰を動かす。いつの間にか映画は終わっており、二人の荒い呼吸と水音だけが部屋に響いている。
「いく、ぞ、克哉」
「みど…さっ!!ああっ、だめ、だっ!」
 御堂の手の中で、克哉が二度目の絶頂を感じ、少し遅れて御堂も克哉の中で達した。克哉の内部に精を吐き出しながら、御堂は深い満足感で満たされていた。


 シャワーを浴び、御堂が用意したバスローブに身を包んだ克哉は、膝を抱えるようにしてソファーに座っていた。
 先程の行為で汚れてしまった服は御堂がクリーニングに出してくれた。どうせ外に出ることは無いだろうと御堂が貸し与えたバスローブは、微かに御堂がいつも使っている香水の匂いがする。くん、と袖口に鼻を埋めて匂いを嗅いでみる。
「何をしているんだ、君は」
 呆れたような声が聞こえてきて顔を上げると、怒ったような、困ったような顔をした御堂が立っていた。そして、克哉にグラスを差し出す。先程と同じベネチアングラスだが、中身はワインではなく、ミネラルウォーターだった。
「このバスローブ、御堂さんの匂いがします」
「何を馬鹿なことを」
 あっさりと否定する御堂の頬が微かに赤くなっているのは克哉の見間違いだろうか。一口ミネラルウォーターを飲み込んで、克哉は言葉を続ける。
「何だか御堂さんに抱かれてるみたいです」
 ただ思ったことをそのまま口にした克哉だったが、その言葉が再び御堂に火を付けたことを悟るのは、それから数分後の事だった。