027:電光掲示板(OB デビケビ)



駅前にある電光掲示板の前で待ち合わせがいつものパターンだ。少し早めについたケビンは、一服しようとタバコを取り出し、火をつけた。
電車でやってくるはずのデビッドはまだ姿が見えない。恐らく今日もぎりぎりか、少し遅れてくるだろうと思いながら、すっかり暗くなった空に向けて煙を吐き出す。街はもうすぐやってくるクリスマスの為に飾り付けられ、眩しいくらいの輝きを放っている。けれど、自分には縁遠い話だった。デビッドと付き合うようになってからは、特に。
昔はこの時期になると、彼女へのプレゼントだ、レストランの予約だと大忙しだったが、相手が相手なだけにそんな事をする必要は無くなった。上司に休暇を申請して渋い顔をされる事もない。それが寂しいと思わなくもないが、まあそれほど気にしていなかった。いい年した男二人で、ケーキを囲んでいるのもおかしな話だからだ。
「おっせえなー」
いつの間にか一本吸い終わっていた。持参した携帯灰皿に吸い殻をおさめて、もう一本取り出そうとして思案する。デビッドは自分がタバコをやめた所為か、ケビンが自分の目の前で吸うのを嫌っている。もし火をつけてすぐにデビッドが来たら、すぐに火を消さねばならず、つまり殆ど吸っていない一本が無駄になるわけだ。それはちょっと勿体ない気がする。
「どうすっかな」
デビッドはケビンの手に持ったタバコを見るだけで、途端に普段から険しい眉間にもう一本しわを追加する。つまり、嫌なのだ。そうなると道中ずっと弁解し続けた上、ベッドで散々デビッドのいう事を聞くハメになる。今日は疲れているのでそれは回避したかった。
散々迷った挙げ句、取り出したタバコをシガレットケースに戻した。そして、携帯灰皿ともどもジャケットのポケットにねじ込む。
タバコはまた後でも吸えるが、デビッドと会う時間は大事にしたかった。
「あーあ、惚れてんな、オレ」

ふと、電光掲示板を見ると、自分が吸っている銘柄のCMが流れていた。
美味そうにタバコを吸う俳優をみて、思わずシガレットケースに指が伸びたが、ぐっと我慢した。
ちょっとは、褒めてもらってもいいんじゃないか、と思った。