026:The World(OB デビジョ)
世界が滅びようとしている。
自分の知っている狭い世界だけれど。
あらゆるところで炎が上がり、街を焼いていく。
もしくは、目に見えない細菌に冒されて、内部から崩れていく。自分が住み慣れた世界が異形のものへと変わっていく瞬間を、私はこの目で見てきた。
自分が住む世界が滅びたら、自分はどうなるのだろうか。一緒に滅びてしまうのか。そんなことを考えながら、でもまだ生きていたくて、慣れない銃を片手に生き延びる術を探している。そんな姿は、我ながら滑稽だと思う。
目の前で友人を、仕事仲間を、担当していた患者を、全ての人間関係を一度に失った。そして、襲いかかってくる彼らを容赦なく撃ち殺す自分に吐き気がした。
いっそのこと、彼らとこの世界で心中した方が良かったのかもしれないと思う。そうすれば、こんなに苦しみ、悩まなくても良かったのだ。
それでも。
「ジョージ」
君の声が聞こえた。
君の大きい手が私の手を取る。
もう片方の手は私の目の前に。
すぐに視界を失った。
「泣きたいなら泣け。俺は見ていない」
ああ、君はどうしてこんなにも優しいんだろう。
君に身体を預けて、私は涙を流した。心の中に溜まっていた澱を吐き出すように、涙は溢れていく。
君の手を握りしめて、その体温で互いに生きていることを実感する。
まだ、終わってはいない。こんな状況でも、自分には出来ることがある。
死んだ友人のために、死んだ世界のために、そして、君のために。
その手を取り合って、世界の終わりから新しい世界へ飛び移ろう。
君となら、きっと生きていける。次の世界の終わりまで。