024:ガムテープ(OB デビケビ)
ケビンはうるさい。よく喋るからだ。
反対に俺は俗に無口と言われる方で、何を考えているか分からないらしい。俺に言わせてみれば、思うこと全て口に出せる方が尊敬する。そんな面倒なこと俺には出来ない。
今日もケビンはよく喋っている。二人で居ても七対三くらいの割合でケビンの方が喋っていると思う。考え事をしている時は煩わしいが、それ以外の時ならば許容範囲だと思っている。思っているだけでケビンにはつい「うるさい」と言ってしまうわけだが。
「なあデビッド、これ面白そうだぜ!これにしよう!」
「大声を出すな、聞こえている」
行きつけのビデオショップでビデオを選ぶときもこの調子だ。何か見つける度に俺を呼ぶ。無視したら来るまで呼び続けるため、余計に恥ずかしい。
呼ぶのはいい。だが大声で呼ぶのだけは勘弁して欲しい。何度か言ったのだが、分かっているのか分かってないのか、次に来たときには同じ事を繰り返す。お陰で店員に名前と顔を覚えられてしまった。
しかし、借りたビデオを片手に上機嫌のケビンを見ていると、どうでも良くなってしまう。苛つく男だが、何故か魅力も多い。…これが惚れてる、って事なのだろうか。俺には分からない。
分からないから考えてしまう。自然と無口になる。ケビンだけが喋り続ける。
これがいつもの俺たちだ。
その日は珍しくケビンの家で食事をすることになった。
何を振る舞ってくれるのかと思えば、近所のスーパーマーケットで売っているような総菜の数々。まさかこいつはこれを食わせるためだけに俺を呼んだのか?
そう言うと、何食わぬ顔で、
「意外と美味いんだぜ、ここの総菜。食ってみろよ」
と、ウィンナーの炒め物を口に押し込まれた。…確かに美味い。黙ってそれを咀嚼していると、言ったとおりだろ?と言わんばかりの顔でケビンが俺を見ていた。こいつ、喋っていない時でも顔で喋ってないか…?俺が無表情すぎるだけか。
食べている間もケビンは喋る。仕事の話、ギャンブルの話、バイクの話はまだいい。ただ、俺の前で女の話をされるのは気に入らない。
「おいケビン」
「んあ?」
全然分かってませんって顔して俺の方を見ている。こういう顔をされると、怒っていいのかどうか分からなくなる。大抵ケビンはポカンと話を聞いているだけで、単に俺一人で怒っているだけになってしまうからだ。全く、調子が狂って仕方ない。
「…もういい」
結局思ったことを有耶無耶にされて、俺は口を閉じた。そう言うことが何度か続くと、ケビンも気になるらしく、俺になんだとしつこく聞いてくる。これがまたしつこいからうるさい。理由を言わなければしばらくの間その話題で付きまとわれるのだ。
この日はどうやら気になった日らしく、何だ何なんだとテーブルの向こうから聞いてくる。いい加減対応するのが面倒になった俺は、早々に食事を終えて勝手にケビンのベッドルームへ逃げた。こいつの部屋は散らかってるのか片づいているのか分からない。床に物は散乱しているが、全く片づいていない訳ではなく、取りあえず物が種類別に分けられている。そしてベッドの上だけは何もない。
「デビッド、何逃げてんだよ!」
ベッドの上で寝ころんでいると、片づけを終えたケビンが部屋にやってきて俺の前に仁王立ちになった。ちゃんと言いかけたことは最後まで話せと怒りながら俺の所に座る。
「途中で言うのやめんなよ、気になるんだよ」
大体お前は、と説教くさい台詞を言い出したところで一旦話を切る。そして、俺は思っていたことを言った。
「俺の前で女の話をするってことは、お前は欲求不満って事か」
「え?」
「つまり抜きたいってことだろう」
「い、いや俺はそんなつもりじゃねえよ」
意識しないうちに眉間に皺を寄せていたのか、ケビンは突然声を小さくして俺から視線をそらせた。勝利が見えた俺は、そのまま追撃に入る。
「溜まってんならいくらでも抜いてやるぜ」
そう言ってケビンに近づくと、同時にケビンは後ずさる。もう少し近づくと、同じだけ離れる。そんなことを数回繰り返すと、とうとうケビンの背中が壁に到達した。もう逃げ場はない。
「諦めろ。むしろ喜べ」
「お、お前遊んでるだろデビッド!!」
それでもまだ往生際悪く逃げようとするケビンの手をつかむ。何か無いかと辺りを見回せば、誂えたように段ボール箱の上にガムテープが乗っているのが見えた。それをつかんで俺は素早くケビンの腕をガムテープで固定してしまう。亀裂が入って水が漏れている配水管をビニールテープで補修するのに慣れている俺に掛かれば、あっという間だ。
「何すんだよ!」
手を上向きに一つに固定されてしまったケビンは、なおも口と足で抵抗を続ける。足は自分の身体で押さえつけ、口は、と少し考えて、俺は手に持ったガムテープを小さめに切り取ると、そのままケビンの口に貼り付けた。
「!?!?」
「たまには口も休ませてやれ」
最後の抵抗手段も封じられたケビンは、恨めしそうな視線を俺に送っていたが気にしない。
さて、今日はどんな風に可愛がってやるか、俺は静かになったケビンを見ながらゆっくり考えることにした。