023:パステルエナメル(OB ジョジム)



「ジョージの肌の色って、いい色だなあ」
「そうかい?」
半分顔を枕に埋めて、ジムがつぶやいた。ジョージはサイドボードからブランデーを持ち出して、グラスにそれを注いでいる。ジムにいるかい?と聞くと、ジムは首を横に振っていらないと言った。あまり強い酒は得意ではない。
一人で寝るには広すぎるベッドを、今はジムが独り占めしていた。簡単な寝間着に着替えたジョージは、自分のグラスを持ってジムの隣に腰掛ける。
「オレ、自分の肌の色嫌いだからさ」
ジョージは何も答えなかった。ジムも特別慰めて欲しいとか、そういうつもりは無かった。ただ、普段は見る事が出来ない、象牙色がかった肌を見て、思った事を言ったまでだ。
「私はジムの肌の色は嫌いではないけど」
琥珀色をしたブランデーを、一口ずつ味わうように口に含む。こうして酒を嗜むジョージはあまり見た事が無くて、ジムは思わず視線が泳いでしまった。
そんな様子を見ていたのか、ジョージは微かに笑って、グラスをサイドテーブルの上に置いた。そして、上掛けの間から出ている、褐色の肌をそっと撫でる。
「ほら、手触りもいいし、何が不満だというんだい?」
「手触りとかじゃないよ。大体誰もオレに触ろうなんてしないしさ。黒人は嫌われてるんだよ?白人のジョージには分からないかもしれないけどさ!」
別にジョージに対して怒っているわけではないのに、何故か言葉が荒くなる。本当は、きれいな肌だと言われて嬉しいはずなのに…
しかし、ジョージはジムの態度を特に気にする様子もない。残りのブランデーを飲み干してから、するりとジムの隣に滑り込んだ。
「私は肌の色という視点で君を見た事は無いよ、ジム。そんな事、私たちには必要ないだろう?そう、例えばこんな事をするのに色なんか関係ないさ」
そう言って、ジョージはジムの脇腹をそっと撫で上げた。勿論ジムも寝間着を着ていたが、まるでそんなものなど存在しないかのように、直接触られたのと同じような感覚が全身に走る。思わずジムは抗議の声を上げた。
「な、いきなり何するんだよ!」
「触れあう事に色なんか関係ないってことさ」
ジョージは一瞬、普段は決して見せないような、人が悪そうな顔で笑うと、脇腹から寝間着の下へと手を侵入させた。先ほどまでグラスを持っていた所為だろうか、ひやりとした感触に思わず身体を強張らせる。ジョージに触られるのは嫌いではないし、むしろ好きなくらいだが、どうしていつも過剰に反応してしまうのだろう、とジムは思った。
冷たかった手も次第に体温に近付き、後は指の感触だけが伝わってくるのみとなる。ゆっくりと脇腹から全身へ指が広がって行く感じがなんとも言えない。
「ジョ、ジョージ!…ちょっとまってよ」
「おや、お気に召さなかったかな?」
「そうじゃないって。オレにだって心の準備ってものがさあ…」
ぶつぶつと言い訳をするジムをいとおしげに見て、ジョージは、
「君に気にするなと言っても、気にするだろうけど。…こうやってると、いつか二人の色が混じりあう、そんな気がしないかい?」
「…医者のくせに、どうしてあり得ない事ばっかり言うんだよ」
「意外と、医者ってのはロマンチストなのさ」
それはあんただけだろ、ジョージ、と言いかけた唇を塞がれて、ジムはそのまま何も言えなくなった。