001:クレヨン(Xeno 赤白)



 赤いクレヨンが好きだった。
 太陽の色。血の色。そしてルベドの色。オレの白なんかあっという間に染めてしまいそうな、深い赤。
 クレヨンなんて使われなくなって久しいのに、どうしてあそこにあったのかはよく覚えていない。けれど、物心ついた時からオレは赤が好きだった。青でもなく、黄色でもなく、黒でもなく、赤いクレヨンが好きだった。
 そして、自分の髪と同じ色をした、白いクレヨンは大嫌いだった。
 白いクレヨンは、いつも誰にも使われる事無く、周りのクレヨンが減っていく中で一本だけ最初の状態を保っていた。
 白い紙に絵を書く時は、白いクレヨンなんかいらないからだ。
 どうしてこんな色がオレと同じ色なのか、考えただけで無性に腹が立った。そして、いつも一番人気のある赤いクレヨンを欲しがった。
「馬鹿だな、こうやって使うんだよ、アルベド」
 ある日、ルベドは白いクレヨンを持ってオレの傍に座った。オレの手には、大好きな赤いクレヨン。そして赤いクレヨンで彩られた画用紙があった。
 ルベドは、おもむろにオレが赤く塗った上から白いクレヨンで色を付け始めたのだ。
「何するんだよルベド!」
「いいから見てろって。ほら、こうやって塗れば、綺麗だろ?」
 ルベドが持つ白いクレヨンで塗られた赤は、見る間にその表情を変え、やがてきれいなピンクとなった。思わず見とれるオレの方を見て、ルベドはしてやったりと言わんばかりの顔で、ニッと笑った。
「白だってさ、こうやって使えば綺麗じゃん」
「そう…だな」
「だからさ、白なんか嫌いって言うなよ」
 オレはお前の事、好きだからさ。
 そうルベドが言った言葉は、クレヨンの油臭い臭いとともに、ずっとオレの心に引っかかったままだ。
 だから、オレは赤いクレヨンが好きだ。今でも、あの血の色と、ルベドの髪の色である赤い色が。