Life of stray hound(サンプル)



 ブラインドの隙間から差し込む朝日で目を覚ます。
 それでもベッドから抜け出したくなくて、ごろりと寝返りを打つと、デビットがいたはずの場所には何もなかった。まだ微かに温もりは残っていたが、抜け出してから程ほどに時間が経っているようだ。
「ん?」
 起きあがって辺りを見回してもデビットの姿はない。何処に行ったんだ、と頭を掻きながらぼんやりしていると、バスルームの扉が開いてデビットが姿を見せた。
「起きたのか」
「おう」
 シャワー使え、とデビットはケビンにバスタオルを投げてよこす。それを上手くキャッチすると、やっとケビンはベッドから抜け出した。
「お前、今日仕事?」
「ん」
 鏡に向かって髭を剃りながら、デビットは頷いた。オレ休みなんだけど、とケビンは少し期待を込めて言う。職業柄、休みでも呼び出されることが多い為、ゆっくりと休める日は貴重だった。そして、今日は同僚に頼み込んで滅多なことが無い限り呼び出されないようにしてもらっている。
 しかし、デビットは何も言わない。黙って鏡に向かい、手際よく髭を剃っていく。聞こえなかったのだろうか、ともう一度言うと、
「一度言えば分かる」
「聞こえてるなら返事しろよ」
 不満そうな表情をしているケビンを見て、デビットは何故ケビンがそのような表情をしているか分からないようだった。いや、分かっているのかも知れないが、敢えて言わないようにしている様にも見える。
「お前が休みでも俺は仕事があるからな」
「…あ、そ」
 顔を整え終える頃には、セットしてあったトースターからパンが飛び出した。それを一枚囓りながら、デビットはケビンに聞く。
「朝食は?」
「…いらねえ」
 すっかり機嫌を損ねたケビンは、ソファにどさっと腰を下ろすと、テレビをつけてそれに見入っているような振りをした。
 本当は、冗談でも仕事が休みなら良かった、とか、そのような類の言葉をデビットに言って欲しかった。しかし、必要なことしか口にしない主義らしいデビットにそれを期待する方に無理がある。ケビンも今までの付き合いの中で分かっているつもりだった。
 しかし、それでも面白くないものは面白くない。
「お前この後どうするんだ」
「ここにいる」
「…勝手にしろ」
 ふてくされた表情のケビンを見て、デビットは半ば呆れたように溜息を吐き、仕事着に着替えて部屋を出る。
「鍵、ここに置いておくから、出るとき掛けろよ」
 ドアの前でケビンに声を掛けたが、ん、と聞いているのかいないのか曖昧な返事しか返って来ず、馬鹿馬鹿しくなって扉を思い切り閉めた。ドアの近くにいた隣人が意味ありげな愛想笑いを浮かべていたが、デビットは気にしないことにした。

続く。