nightmare(サンプル)
「や、止めてくれ!デビッド!!」
「嫌だ、止めない」
「駄目だ、こんな所で…」
ジョージは迫ってくるデビッドを必死の形相で拒否した。しかしデビッドは怯むことなく、ジョージに近づいていく。
「いいだろう、一発も二発も同じだ。それにお前が何とかしてくれるんだろう?」
「そ、それとこれとは別問題だ!ゾンビに襲われたのならまだしも、こんな所で傷を増やすわけにはいかない」
回復剤だって限りがあるんだぞとジョージが言うと、確かにそうだな、とデビッドは納得した。と思った次の瞬間には、
「それなら何処ならいいんだ。この部屋は嫌ななんだろう。どうせなら邪魔が入らない所がいい。鍵の掛かるところにするか」
「論点がずれている!いいか、私はここだろうと何処だろうと今は嫌だと言っているんだ。そういうことは脱出できたら好きなだけやればいいだろう」
とうとう我慢できなくなったのか、先ほどから逃げてばかりだったジョージはデビッドに詰め寄り、デビッドを指さしながら抗議をする。よっぽど嫌らしい。恐らく先のことで懲りているのだろう。
「考えてくれ、あれに巻き込まれたらただでは済まないんだぞ。君は楽しいかもしれないが、私の身にもなってくれよ」
「しかし」
「しかしもかかしもない!とにかく、暫く私に近づかないでくれないか」
そう言い残して、ジョージはさっさと部屋から出て行ってしまった。一人残されたデビッドは、何も出来ずただジョージの後ろ姿を見送るだけだ。
確かに先のことは自分が悪かったと反省している。ジョージが言うことももっともだ。しかし、その姿を見るたびに、どうしても衝動を抑えきれないのだ。昔、荒れていた頃と同じように、血が沸き立つような衝動を。
とにかく、ジョージを捜して説得しなければならない。やるならば二人合意の元で行いたいとデビッドは思っていた。自分だけが楽しくても仕方ないからだ。
「しかたねえ…」
ぼりぼりと頭を掻きながら、先ほどジョージが出て行った扉を開けて、デビッドはジョージの後を追った。
「全く、彼は自分の事しか考えていない!」
その頃、ジョージは珍しく荒い足音を立てて廊下を歩いていた。先ほどゾンビを一掃した廊下は非常に歩きやすい。頭を吹き飛ばされた死体が所々転がっているが、それは見ないふりをした。
怒っている原因は、勿論デビッドの事である。一度流されるままに受け入れ、痛い目を見たジョージとしては、デビッドの願いは断固拒否すると心に決めたばかりだ。あの後暫く全身から痛みが消えずに大変だった事は彼も知っているはずなのだが。
「本当に…」
ふと、立ち止まって振り返る。しかし、デビッドが追いかけてくる気配はなかった。本当は心の奥底で、追いかけてきて謝ってくれるのではないかという淡い期待を抱いていたのだが、そういう配慮はデビッドには無いようだった。期待した自分が馬鹿だったと、ジョージは溜息をつく。
「おーい、何やってんだー。一般市民はホールに集合!さっき放送されただろ?」
大声に気がついて顔を上げると、廊下の突き当たりにある扉の前に、一人の警官が立って手を振っていた。確かケビンとかいう警官だったはずだ。
「ああ、すまない、考え事をしていて聞き逃してしまったようだ」
「はは、あんな勢いで歩いてりゃ聞こえねえなー。何だ、あのむっつりスケベそうな男と揉めたのか?」
「なっ…!!」
警官にしては楽観的すぎると性格に疑問を抱いていた人間だったが、洞察力はさすがと言うべきか。図星を言い当てられて、ジョージは次の言葉を失った。
「痴話喧嘩は安全が確保されたところでやってくれよ。さ、早くホール行ってくれ」
「あ、ああ、そうすることにするよ」
そう言ってケビンの横を通り、後ろにある扉に手を掛けた時、気になる事を言われた。
「早く行けよ。もうすぐここは化け物どもを殺すガスを散布する予定だからな。人間が吸い込んだらイチコロだぜ?」
「そうなのか?」
「そうそう。だから早く行けよー」
ケビンはそう言うと手を振って、向こう側から扉を閉めた。閉める瞬間、廊下の向こう側が見えたが、デビッドの姿をそこに確認することは出来なかった。
ホールへ続く扉を開けたと同時に、館内に放送が流れる。
「今から玄関ホール以外のフロアに特殊ガスを散布する。これは館内に侵入した化け物を殺すための物だが、人間が吸っても効果があるため、該当エリアにいる人間は直ちに玄関ホールに集合すること」
ホールには既に数名の人間が待機していた。警官から一般市民まで様々な人間がそこにいたが、デビッドの姿を確認することは出来なかった。まだあの部屋にいるのだろうか?もしそうだった場合、ガスに巻き込まれる可能性が極めて高い。
「デビッド、何故来ないんだ…」
続く。
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