at quiet night(サンプル)



 家に着くと、荷物の片付けもそこそこに御堂は克哉の唇を貪った。
 丸二日人気の無かった室内はひんやりとした空気で満たされている。帰宅してすぐヒーターをつけたのだが、部屋が暖まるにはまだ時間を要しそうだ。
「っ……あ、はっ……み、どう、さん……」
「どう、した」
 御堂の手が克哉の腰に回り、そこからゆっくりと下へと撫で下ろされる。既に前は硬くなっており、克哉は御堂の身体にそれを押しつけてくる。欲しいのか、と耳元で囁けば克哉は首を縦に振った。それを見た御堂は僅かに身体を離すと、克哉のベルトを簡単に外してズボンを寛げた。
 隙間から手を滑り入れると、克哉のペニスから既に大量の先走りが漏れており、下着を汚していることが分かった。先端をぐっと押しつぶすようにして引っ掻けば、御堂の腕の中で身体を震わせる。そのまま何度か引っ掻いてやると、粘つく液体が更に先端から吐き出される。
 克哉の喘ぎ声をキスで塞いでしまって、御堂はさんざんに汚れた手をそのまま前から後ろへ移動させた。ペニスから手を離され、あ、と切なげな声を上げた克哉だったが、御堂の指が後孔の縁をゆるりと撫でると、次に訪れるであろう快感を想像したのか、きゅっとそこが締まった。
「触れて欲しくないのか?」
「触って……もっと、いっぱい……」
 ならば力を抜け、と御堂が言っても、克哉はなかなか力を抜こうとしない。仕方なく、きっちりと閉じられたそこに人差し指を当てると、強引に割り裂いていく。あ、あ、と短い悲鳴が何度か続いたかと思うと、ぎゅっと御堂のシャツを克哉が掴んだ。
「いっ、あ……んっ、は、ぁ」
「まだ一本しか入っていないぞ」
「で……も、んあっ」
 中に入った人差し指を内壁に沿ってぐるりと撫でるように動かせば、更にきつく締め返してくる。食いちぎられる。そんな思いが脳裏を過ぎるほど、克哉の締め付けはきつかった。
「力を抜け……克哉」
「そん、なっ……無理、あ」
 御堂が力任せに指を動かす。少しずつ広げるようにして、ぐるりと円を描くように動かしたり、何度か抜き差しすればそれだけで克哉は苦しそうに喘ぐ。克哉のズボンはいつの間にか下着とともにずり落ちて、膝の辺りで止まっており、それが足枷となって克哉の自由を奪っていた。中途半端に服を脱いだ状態で自分に縋る克哉を見ていると、嗜虐心で満たされていくのを感じる。
「ここに手をつけ」
「え?」
「早く」
 言われるがまま、克哉は御堂の背後にある壁に手をついた。快感に震える身体を支えるために、自然と上半身が倒され、代わりに腰を後ろに突き出したような格好になる。克哉が自分の体勢を必死に買えている間も、御堂は克哉の中から指を抜こうとはしなかった。
「それでいい」
 先ほどとは逆の位置、丁度克哉の背後に回り込むように移動した御堂は、克哉の中から指を引き抜いた。それと同時に零した克哉の悲鳴には、引き留めるような声色が含まれていたのを御堂は決して聞き逃したりはしなかった。
「指では足りないのだろう?君は、本当に」
 淫乱だな、と言いながら自分のベルトを外してズボンの前を寛げると、まだ完全に解れていない克哉のアヌスに自身の下半身を当て、腰を押し進める。御堂自身の先走りで多少の滑りはあるものの、御堂を受け入れるには全く足りていない。ギチ、と湿った肌同士が擦れあって嫌な音を立てる。
「あ、ああっ、いや、ああ」
「嫌?嫌じゃないだろう?君は、こんな風に、扱われるのが好きなんだ……」
 指とは比べものにならない質量が自分の中に入ってくる。あまりの痛みに克哉は息を詰めた。強張った身体を解すため、上着の裾から手を差し入れて脇腹をくすぐるように撫でてやる。しかし今の克哉にはそれすらも快感に変換されるようで、御堂の手から逃れようと身を捩っていた。
「いっ……あ、はぁああ、ん」
「君は私を食い尽くすつもりか?」

***

 誰かが部屋の扉をノックしている。入れ、と返事をすれば、失礼します、と聞き慣れた声が聞こえてきた。
「お呼びでしょうか」
 克哉が部屋に入ってくる。まっすぐに御堂の机の前に来ると、付箋紙を貼り付けた書類を目の前に差し出した。
「この提案資料だが、ここをもう少しわかりやすく直せないか?これでは言いたいことがぼやけてしまっているように見える。プロトファイバーを比較に出すのは構わないが、あくまで新製品のプロモーションだということを忘れないように」
 まじまじと付箋紙が貼られた箇所、そして御堂の字が書き込まれた箇所を確認し、克哉は頷いた。
「分かりました。修正します」
「宜しく頼む。後……来週の出張だが、君も一緒に行ってもらう」
「え、オレも、ですか」
 コンピュータ上のスケジュール管理ツールを立ち上げながら命令すれば、驚いた声が返ってきた。そう言えば前の出張に連れて行くと言ったときも、同じような反応だったな、と思い出し心の中で笑う。
「そうだ。不満か?」
「いえ、そんなことはありません」
「その会議に、君が今作っている資料も持って行くからな。それまでにきちんと仕上げるように。以上」
「はい。失礼します」
 くるりと踵を返し、部屋を出て行こうとする克哉の全身を見る。スーツの袖から見える手首には、腕時計が巻き付いている。元々克哉が持っていた物ではなく、御堂が贈ったものが。
「ああ、言い忘れた」
「何でしょう?」
「……その時計、よく似合っているじゃないか」
 途端、克哉が口をぱくぱくさせた。言いたいことがあるのに、口に出せない、と言った様子だ。部屋の扉が閉まっているのを確認して、更に御堂は追い打ちを掛ける。
「鎖は、付けたままだろうな?」
「はい……」
「それでいい。では、戻りなさい」
 克哉がちらり、とこちらを見る気配がしたが、御堂はモニターに視線を落としたまま、仕事に没頭している振りをした。そのまま克哉は部屋を出て行く。ぱたんと閉められたドアの音が耳に付いた。
 結局、あの時計は克哉の物になった。だが、あれだけ要らないと言っていたのだ、容易く渡すのも癪だと、御堂が合わせてプレゼントしたのは、細い、ペンダントに使うような鎖と、小さなピンチコックだった。鎖は腕時計とピンチコックを繋いでいて、激しく動かせばピンチコックに挟まれた乳首に快感を与える。
 首輪では目立ってしまう可能性も考えて、そうしたのだ。初めは克哉も抵抗したが、今では時々自分で付けてくるようにすらなっていた。そして、その時計を付けてきた日は、抱いて欲しいという克哉のサインだということを、御堂は知っている。
 定時まで後一時間。急ぎの仕事がなければ今日は早めに帰宅しよう。そして、克哉が望むように、めちゃくちゃに抱いてやろう。そう考えただけで疼く下半身をどうにか押さえながら、御堂は再び仕事に集中した。

続く。