Is this love?(サンプル)



 その日克哉が目を覚ますと、ベッドに御堂の姿はなかった。昨日は克哉の方が先に眠ったというのに、もしかして御堂は眠っていないのではないか、と不安になる。
 克哉はまだ眠い目を擦りながらも、御堂の姿を探してふらふらとリビングへ移動した。新聞でも読んでいるのかと思ったのだが、御堂の姿はそこにはなかった。
「御堂さん……?」
 何処かへ外出したのだろうかと思ったその時、一つの扉が大きな音を立てて乱暴に開かれた。それは、御堂が普段書斎として使っている部屋へ続く扉だ。御堂さんは書斎にいたのか、と克哉が視線を向けたとき、普段より早足で部屋を出てくる御堂と目が合った。どこか慌てているように見える。
「起きたのか。急な仕事が入ったから少し外出する。すまないが今日の約束は帰ってきてからでもいいだろうか」
「構いません。オレ、待ってますから」
「……すまない。なるべく早く戻る」
 申し訳なさそうに目を伏せて、御堂は足早に部屋から出て行った。その背中を見送りながら、休日なのに慌ただしいな、と残念に思うのも事実だった。
 現在試作品段階まで来ているプロジェクトの他、企画段階のものもいくつか手がけている御堂は、寝る間も惜しんで働いている。二人で一緒に休日を過ごすのも、実は数週間ぶりだった。だから克哉は今まで以上にこの週末を楽しみにしていたのだが、こうなってしまった以上嘆いても仕方がない。
 目覚ましの為にコーヒーでも飲もうかとキッチンへ移動しようとしたその時、先程まで御堂が居た書斎の扉が半開きになっていることに気づいた。細かいところに厳しい御堂には珍しいことだ。御堂が慌てていたのは確かだが、ドアも閉め忘れるほど深刻な事態なのかと心配になる。
 とにかく閉めておこうと扉に近づいて、そういえば書斎の中はあまり見たことがなかった、と思い至った克哉は、好奇心もあって少し中を覗いてみることにした。
 御堂は書斎に入ることを禁止してはいなかったが、特に用事もなく、今まで数回、それも入り口から中を覗いたことしかなかった。だから、改めて部屋に入るのは何だか悪い事をしているようでドキドキする。
 部屋の中は明かりが消えて薄暗い。窓のない内部屋だから余計にそう思うのだろう。手探りで照明のスイッチを探しだすと、ようやく視界が開けた。
 六畳ほどの狭い部屋だ。壁の大半を占める本棚に圧倒される。御堂が好んで読んでいるというノンフィクション系の本の他に、市場に関する本や株の本など様々なジャンルのものがきっちりと収められていた。
 本棚を眺めながら、奥に置かれた机に近づく。机の中央にはコンピュータのディスプレイが据えられ、辺りには読み掛けの本や雑誌に混ざって走り書きのメモや書類などが散乱していた。以前に覗いたときはきちんと片付けられていたはずだったから、ここ最近の御堂の忙しさが嫌でも分かる。少し片付けようかとも思ったが、勝手に触って大切なものを無くしても困るので、そのままにしておくことにした。
 克哉は灯りを消してリビングへ戻った。ちょっとした探検は僅か数分で終わり、克哉はあっという間に手持ち無沙汰になってしまった。
 ソファーに座り、傍にあったクッションを抱えながら、テレビを付けた。休日の昼間のテレビというのはどうしてこうも面白くないのだろう。タレントが下らない話をしている番組をぼんやり見ながら、克哉は溜息を吐いた。
 時計を見れば、御堂が出て行ってからまだ三十分も経っていない。一緒にいるときはあっという間に時間が流れるというのに、待つ時間というのは中々過ぎないものだ。それに、御堂が日の出ている内に帰ってくるという保証もない。
「DVDでも、借りてくれば良かったかな」
 テレビを消して、ごろりとソファーの上で横になった。防音が完璧なこのマンションは、克哉の部屋と違って隣の住人の気配を感じることもない。また、高層階にあるため街の喧騒も届かない。あまりに静かすぎて、何だか世界に一人だけ取り残されてしまったような錯覚すら覚える。
 この前買った小説は読み終えてしまっていた。あまりにすることがないので、買い物にでも行こうかと立ち上がろうとしたとき、先程の書斎の様子を思い出した。書棚に並んでいた本の中に、克哉でも読めるような本があるかもしれない。
 そう思った克哉は再び書斎に戻った。そして、本棚の前に立つと適当に目に付いた本を一冊取り出してみた。それは経済学の本で、大学時代を彷彿とさせたため咄嗟に元の場所に戻していた。
「出来たら小説とかがあるといいんだけど……御堂さんそんなの読まないよなぁ……」
 再び適当に本棚を見て、小説らしいタイトルの本を引き出してみる。ビンゴだ。何処かで見たことがある、日本人作家の小説。何だかこの本だけは周りと比べて毛色が違っていた。
 ぱらぱらとページを捲ってみると、やはり小説のようだった。ジャンルは分からなかったが、経済学の本よりは読みやすいと、そのまま拝借してリビングに戻ることにした。途中でキッチンに寄り、飲みかけのミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出す。それをリビングテーブルの上に置いて、克哉はソファーに座った。読書に没頭する準備は万全だ。
 一ページ目を開く瞬間は、何だかそわそわする。紙の端が少し変色しており、古い本独特の匂いが鼻を掠めた。
 内容はどこにでもある恋愛物だった。御堂がこんな本を読むとは、と意外な一面を垣間見た気がして何だか嬉しくなる。余り自分のことを積極的に話そうとしない御堂だからーー何たって、誕生日すら克哉に教えてくれないくらいだーー些細なことでも克哉にとっては重要だ。
 文字を追っている間は時間を忘れることが出来る。冬の短い昼間が終わりを告げる頃、三分の二ほど読み終えていた。御堂が帰ってくるのが早いか、克哉が本を読み終わるのが早いか、といったところだ。ストーリーも佳境となり、主人公が恋人との間に生じた誤解を解こうと一生懸命になっている。
 続きが気になって性急に捲ったページから、ぽろりと何かが落ちた。ページがちぎれていてそれが挟んであったのかと焦った克哉は床に落ちたそれを拾い上げる。
 が、それはちぎれたページなどではなかった。
「これって……」


***(中略)***


「こんな所で寝ると風邪を引きますよ、御堂さん」
 軽く肩を揺すってやると、薄く目を開いた。起きましたか、と顔を覗き込む克哉の首に、御堂の手が伸びる。あ、と思った次の瞬間にはぐいと引き寄せられ、唇を重ねていた。
「んっ……はっ……」
 隙間を縫うようにして舌が入り込んでくる。自分からもそれを積極的に絡ませながら、互いの口内を侵していく。
「っ、あっ……は…うっ」
 ようやく解放された頃には、克哉は御堂に抱きつくような格好になっていた。
「御堂さん!起きていたんですか?」
「いや、少し眠っていたようだが……君に起こされたんだ」
 嘘だ。寝起きの人間があんなに激しいキスをするだろうか。お陰で、克哉の下半身は熱を持ち始めていた。それを御堂は承知の上で、ぐい、と膝で刺激してくるからたまらない。
「寝室に行くか?それともここでして欲しいのか」
 その言葉に顔がかぁっと熱くなる。後ろ首に添えられていた御堂の手はゆるゆると克哉の背中に沿って降りていき、尻を掴むようにして揉まれる。
「選ばせてやろう。どちらが良い?克哉」
 耳元で名前を囁かれ、ぞくりと背筋が粟立つ。
「そ、そんなの……ずるい、です……」
「選ばないのなら、ここでしてもいいんだな?」
 御堂の手は既に克哉のベルトを外し始めていた。流されてしまう、と思いながらも、その先を期待しているのも事実だ。中途半端にズボンと下着を下げた状態で、座りなさいと促された。
「それとも、立ったままがお好みかな?」
「そ、んなっ……!んっ、あっ」
 克哉が躊躇していると、御堂が露わになった下半身に口を寄せてちろりと舐め上げた。それだけで克哉のペニスは嬉しそうに跳ねる。どれだけ恥じらって見せても、これから与えられるであろう快感の前には意味がない。身体は正直すぎるほど素直に反応してしまうからだ。
「相変わらず、いやらしい、身体だな」
「それは、御堂さんの所為じゃない、ですか……んんっ」
「私の?心外だな」
 口ではそう言いながらも、御堂は楽しそうに笑う。十分すぎるくらい硬くなったそれを口に含む御堂を見下ろすと、既に御堂の下半身も硬くなり隆起しているのが見えた。
「はぁ、あ、み、どうさっ……」
「もう我慢できないのか?君は、本当に淫乱だな」
 荒い呼吸に紛れてまともに返事も出来ない。気持ちよさに震える膝を支えるように、ソファーの背の部分に手をついた。
 いつの間にか御堂の手が後ろに回っており、克哉の先走りと御堂の唾液を絡めた指が中へ差し込まれていた。異なった快感が同時に克哉を襲う。抜き差しされる指を離すまいと内壁がうねり、それに合わせてペニスが震える。
「んんっ、いや、あぁあっっ」
「まだ、いくなよ……」
 ずるりと指が引き抜かれ、御堂の口が離れていく。ギリギリの所でお預けをくらった克哉は、思わず自分の手を伸ばしかけた。

続く。