On a rainy day(サンプル)
「……佐伯くん。帰ってきていたのか」
「御堂部長……」
御堂は克哉を見、そして全身が濡れている事に気づくと、つかつかと近づいてきて手首を掴んだ。その表紙に、手にした書類がばさばさと床に落ちる。
「ああっ!」
「傘は持っていなかったのか?」
きつい口調で責められるように問われたが、克哉の関心は別の所にあった。
「御堂さん、書類が、汚れてしまいます」
そう言うと、御堂に手首を掴まれたまま、身体を屈めて散らばった書類を集めようとする。それで御堂も克哉が持っていた書類が今日工場から持ってきたものだということに気づき、手を離した。
一枚一枚拾い集め、汚れていない事を確認した克哉は、安堵の溜息を吐いた。そして、目の前に立つ御堂にそれを差し出す。
「今日の最終確認の結果と評価シートです。上層部からは承諾を頂きました。後は生産ライン側との調整だけです」
結果を報告していると、あの時の高揚感が少しだけ戻って来る。御堂は克哉からの報告を聞いて満足げに頷き、よくやった、と褒めてくれた。
「君なら出来ると思っていた」
「いえ、御堂さんのお陰です。オレは代役を務めたに過ぎません」
「代役とは言え、商品をよく知ったものにしか出来ない事だ。君は良くやってくれた」
書類を受け取った御堂は、ぱらぱらとそれらに目を通し、すぐに机の上に置く。
「さて、それはいいが、君のその格好はどういう事だ?」
再び厳しさが御堂の声に滲む。克哉は口ごもり、俯いた。
「その……傘を持っていなかったので、駅から近くのコンビニまで走って、その間に」
「外が酷い雨だということは私も知っている。だが何故だ。駅までたどり着いたのならばタクシーを使えば良かっただろう」
ぎゅっと濡れたシャツを片手で掴み、克哉は唇を噛みしめた。そんな克哉に、御堂は溜息を吐いて、
「君が憎くて言っているんじゃない。心配だから、言ってるんだ」
来い、と御堂が再び克哉の手を取る。克哉は素直に御堂に従い、手を握られたまま部長室へと連れて行かれた。
入り口の前に立ちすくんでいる間、御堂はロッカーから何かを取り出すと、克哉の方に投げた。慌ててキャッチしたそれは、大きめのフェイスタオルだった。
「取りあえずその濡れた髪と身体を拭け」
「はい」
受け取ったタオルは柔らかく、頭に掛けただけで水分を吸い取ってくれるような錯覚すら覚える。髪を拭き終えて次は顔、首、と拭いていくと、御堂が突然、上を脱げ、と言った。
「えっ」
「濡れたままのシャツを拭いたところで意味がないだろう」
「でも……」
こんな所で上半身裸になるなんて、という躊躇いが克哉にはあった。いくら個室だとは言え、ここは会社の中で、いつ誰が入ってくるか分からない。過去に何度かこの部屋で御堂にいやらしいことをされた事があったが、あの時も気が気ではなかったのに。
「それとも、君はその格好のまま帰るつもりだったのか?身体に貼り付いて透けているというのに?」
御堂に言われてハッとする。濡れたシャツはぴたりと身体に貼り付いて、克哉の身体のラインを忠実に表していた。濃いめの色のシャツだというのに、胸の突起すらうっすらと見えている。
そう意識した途端、かあっと顔が熱くなる。と同時に、胸が僅かに膨らんだ気がした。まさか、と思って手で確かめようとした克哉は、その直前で我に返った。
「どうするんだ?」
御堂の声に若干熱が籠もっているような気がするのは錯覚か。克哉はのろのろとシャツのボタンに手を掛けた。一つ一つ外していき、スラックスの中に入れていた裾も引っ張り出して、貼り付くそれを身体から引きはがした。
克哉が脱いだことを確認して、御堂が近づいてくる。乳首が硬くなっているのは明らかで、克哉はぎゅっと目を閉じて顔を背けた。
「どうした、克哉」
「見ないで……ください……」
そう言って、手にしたタオルで身体を覆い隠そうとしたとき、御堂の手が克哉の肩に触れた。普段ならば冷たいと感じる御堂の手が温かく思える。
「冷えているな」
御堂はそのまま手を腕に沿って撫でていく。二の腕から肘の裏側を通り、手まで到達すると克哉の指に自分の指を絡めた。
「まるであの日の君のようだ」
克哉が握りしめていたタオルは御堂がするりと抜き取った。覆いを取り払われ、露わになった身体に御堂の顔が近づいてくるのを、克哉は止める術を持っていない。御堂がどのような行動に出るのかを息を詰めて待つ。
「あの日の君も冷えた身体を私の前に晒して、言ったな。好きでもないなら抱かないで欲しい、と……」
御堂が声を発する度に息が掛かる。冷えて全身敏感になった肌にはその刺激は強すぎた。このまま肌に口づけされて、舐められたらどうなってしまうのだろう。ザラリとした舌の感触を想像するだけで、ガクガクと足が震える。
そして、その時は訪れた。生温い体温が首筋に触れ、強く吸われる。ちくりとした痛みにも克哉は目を開けなかった。すぐに痛んだ箇所を舐められ、痛みが煽られる。
仕事中に乳首を硬くして興奮している自分を、普段の御堂ならば詰った筈だ。しかし今日に限って御堂は何も言わない。ただ淡々と克哉に刺激を与えてくるだけだ。
御堂の体温が冷えた身体に心地良い。御堂の体温に引きずられるようにして克哉の体温も徐々に上がっていく。
首から下がってきた御堂の舌が、硬く凝った乳首に達したとき、今までとは比べものにならない刺激に克哉はバランスを崩してよろけた。足から力が抜けて床に倒れ込みそうになるのを、御堂が片手でしっかりと抱き留める。そして、
「こっちへ来い」
御堂の執務机の陰まで引っ張られるようにして移動すると、床に座らされた。
続く。
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