snow drop(サンプル)



 十二月に入った。今年も残すところ三十日もない。
 師匠も走る師走、という昔ながらの言い伝えに漏れず、克哉と御堂の周りも徐々に忙しくなりつつあった。年末休暇のため、普段よりも仕事の締め日が早い事もあるし、各取引先も一斉に休みに入ることを考えると、締め切りが通常なら月末の資料も、この月に限っては何日も早まる。
 毎年のことだというのに、慌ただしいことには慣れないな、と克哉はモニターの前で溜息を吐いた。
 それでも、年末年始の休暇があると思えば頑張れる。今年は実家に帰らず、御堂と一緒に過ごす約束をしているから、楽しみだと思う気持ちも余計に大きかった。まだ一緒に過ごすという話をしただけで、具体的にどこで過ごすのか決まっていない―ただ、例外として御堂の実家だけは緊張するから嫌だと言ってある―こともあって、行き先を考える楽しみもある。
 と言いながらも、克哉としては別に何処かへ行きたいというわけではなかった。いつもの休日のように、ただ二人で過ごせればそれでよいと思っていた。御堂にそれを言うと、欲がないと呆れられたが、過去に恋人がいた時でも積極的に何処かへ出かけたりすることが無かったので、克哉は特に何とも思わない。
 それに、御堂と一緒にいるとどうしてもベッドから抜け出せず、結局一日中家、という事も多いので、克哉は年末年始もそうなるのだろうと勝手に考えていた。
 その時、ふと昨晩の情事が記憶を掠め、かあっと顔が赤くなる。仕事中に何を考えているんだと思いながらも、御堂の低く掠れた声が耳に蘇った。
 まずい、と思った克哉は、ぶんぶんと頭を振ってその記憶を追い出そうとする。
「どうした、佐伯くん。手が止まっているぞ」
「は、はい!すみません!」
 危険な記憶と克哉が人知れず戦っていると、克哉の様子を心配したらしいチーフから声を掛けられる。今日は隣の席だったのだと思いだし、慌てて姿勢を正すと、先ほどまで作成した資料に向き直った。今は勤務中だ、集中しろ、と自分に言い聞かせて、克哉は再び手を動かし始めた。
 仕事に集中していれば、邪なことを考えている余裕もなくなる。克哉は再び資料作成に没頭していった。
 そして、少し離れたところからそんな克哉の様子を見ていた御堂が、微かに笑ったことに克哉はもちろん、商品企画部第一室の誰も気がつくことはなかった。

***中略***

「ん、あ……」
「もう我慢できないのか?」
「だ、だって……」
 後ろから胸の突起を弄られて、克哉は甘い声で喘ぐ。既に硬くなったペニスは先走りに濡れてぬらりと光っている。明かりを消した室内で、唯一暖炉だけが赤く燃えて二人を照らしていた。
 腰の辺りに屹立した御堂のペニスが当たっているのが分かる。早く入れて欲しいと腰を動かして見るも、滑って中には入ってくれない。そんな克哉の様子を見て、御堂はおかしそうに笑う。
「そんなに欲しいのか、これが」
「欲しい、欲しいです……御堂さんの……」
 うわごとのように呟きながら刺激が欲しいと強請る。軽く耳朶を噛まれ、びくっと身体を強張らせると、胸を弄っていた手が片方後ろに回された。
「まだ解してもいないんだぞ?」
 御堂の指が一本中に入っていくのを感じ、克哉は身体を震わせた。背筋を這い上がっていく感触は何度感じても気持ちが良い。閉じられた中をかき回す指からもっと快感を得ようとして自然と締め付けるような状態になると、御堂がきついぞと苦笑した。
「全く君は淫乱だな」
「御堂さんが、したんですよ……オレを、こんな風に……っ」
「違うな。君は元から好きだったんだ、こういう事が」
「ちが……ああっ!」
「どうだ?違わないだろう?」
 意地悪な台詞は克哉を煽るための道具になる。指を二本ねじ込まれても、まだ足りないというように蠢く内壁を引っ掻きながら御堂は言う。うなじに舌を這わせれば克哉の身体がびくびくと震えた。ペニスにはまだ一度も触れてないというのに、既に大量の先走りで汚れているのを見て、御堂は喉の奥で笑った。
「中だけでいいのか?」
「いっ、あ、嫌、いやだ……前も、触って……」
「君は贅沢だな。そして、我が儘だ」
「あぅんっ!ああっ、あ……っ」
「なあ、克哉」
 御堂は克哉の中から指を引き抜くと、屹立した自身を代わりに入り口にあてがった。先端だけぐっと押しつけただけでぐちゅっといやらしい音がする。克哉はシーツを握っていた手を離して、自分のペニスに触れようとした。が、それを御堂に阻まれる。
「勝手に触るなと言っただろう」
「ご……ごめん、なさい」
「暫くお預けでもいいんだぞ?」
「いや、嫌です、それは……」
 ごめんなさいごめんなさいと克哉は首を振る。与えられそうになった快感を目の前で引っ込められる程辛いことはなかった。何せ今でも既に身体は快感を欲して震えているのだから。
「それならシーツでも掴んでおけ」
 御堂は克哉の身体を仰向けにすると、腰を持ち上げて足を折るような格好にした。露わになった中への入り口は、既に広がってひくひくと蠢いている。克哉は手を両足の膝に置くと、広げてよりそれが見えるように格好を変える。
「みどう、さん、はやくっ」
「そう、急かすな……」

続く。